今回は、「最も早くから出ることの多い症状」と「最も家族を驚かせ悩ませる症状(せん妄)」について見てみましょう。
「せん妄」という言葉は、一般には知られておらず、誤解されていることがとても多いです。しかし具体例を見ると当てはまる方が、大勢いらっしゃると思います。是非、注意してチェックしてみて下さい。
レビーの発見者である小坂憲司医師の「第二の認知症 増えるレビー小体型認知症の今」という本(レビー関係者には必読本)からの抜粋です。
<レム睡眠行動障害> (夜中の大きな寝言や異常行動)
悪夢をみて大きな声で寝言を叫んだり、怒ったり、怖がったり、暴れたりする。
レビー小体型認知症ならびにパーキンソン病において高頻度にみられる。
誰にでも寝言はあるが、頻度が尋常でなく、繰り返される。
具体的には、奇声をあげたり、「この野郎!」などと大声で寝言を発したりする。悪い夢や嫌な夢を見ているケースが大半。
急に起き上がる、腕や脚をバタバタさせる、ベッドから転げ落ちる、壁に体をぶつける、隣の配偶者を叩くこともある。
夢遊病のように歩き回るようなことは殆どない。
レビー小体型認知症の人には、この症状が発病(診断)の10年前、20年前からあったというケースも見られる。
従って最近では、前ぶれ(前駆症状)と考えられている。(注1)
中期以降では、この症状は見られなくなることがほとんど。 (P.83〜84)
(注1)「健常者でも0.5%前後に見られるとの報告がある」(河野和彦著「コウノメソッドでみる認知症診療」P.200 報告の出典はP.213)
追記byしば:母はレビー発症前にこの症状を精神科医に相談し「夜驚症。ストレスでひどくなった寝ぼけ」と言われました。夜驚症は異常言動の記憶がないといいますが、レビーの場合は、夢の内容(強盗と戦っていた等)を覚えているといいます。母も夢の内容を詳しく話せました。
介護家族の中には、レビー発症前にこの症状から脳ドックを受け「異常なし。心配ない」と言われた方もいます。
「毎晩もの凄い声で叫ぶので隣では眠れない」「夜中に突然、殴られたりする」と話す介護家族の方もいます。
<せん妄> (意識障害)
せん妄とは、軽い意識障害(混濁)に伴って幻覚、興奮、思考力低下、注意力欠如などが見られるもの。急激に起こるが、一時的なもの。
(アルツハイマー型、脳血管性認知症の症状としてもよく知られている。)
例:「火事だ!」と騒ぐ。/ぶつぶつ独り言を言う。/死んだ飼い猫(幻視)が見える。/夜中に「畑に水やりに」と出掛けようとするなど異常な言動。
夜中に起こることが多く「夜間せん妄」と呼ぶ。手術後も頻度が高い(術後せん妄)。
脱水や薬物が原因となってせん妄が生じるケースもある。
せん妄とレム睡眠行動障害は、別のものだが、どちらか特定することが難しい場合もしばしば。せん妄は、後で思い出せないが、レム睡眠行動障害は、目を覚まさせると夢を見ていたとわかることが多い。(P.85)
追記:河野和彦医師の著書「新しい認知症ケア 医療編」(P.70)から
「せん妄は、軽度の意識障害に不穏が伴った状態。患者は、幻覚、妄想、不安、恐怖を味わっていて、精神的に極めてアンバランスな状態にある。
目がうつろ、視線を合わせない、うろうろ動き回り転んでばかりいる、大声で叫ぶ、目をつぶって体を揺すっている、周囲にわからない言葉をつぶやく等」→詳細
追記byしば:手術の後に起こった母のせん妄は、次のようなものでした。
●支離滅裂なことを延々と話し続ける。(独り言?)
●突然怒り出し、興奮して怒鳴り続ける。
●人と話す時に視線を合わせようとせず、あらぬ方向を見ている。
●夜中に「助けて!」等と叫ぶ。 ●ベッドの柵を乗り越えて落下する。
●点滴を引き抜く。 ●汚れたオムツを外して投げる。 ●常に見える多様な幻視を現実と思い込み、泣いたり怒ったり、それに常に振り回されている。等。
当時、若い医師は「会話ができるのだから、せん妄ではない」と説明。(その後、他の医師から「それは、せん妄だろう」と言われました。)
家族は、『認知症が一気に進んで、訳の分からない人になってしまった』と大変なショックを受けますが、せん妄が治まれば、必ず元に戻ります。
しかしせん妄が、中々治まらない場合もあります。
「多くの認知症患者はせん妄を合併している。特にレビー小体型認知症患者の多くが、慢性的にせん妄を抱えている」(河野和彦著「コウノメソッドでみる認知症診療」P.21)
母のせん妄は、治療しても治まりませんでしたが、3年近くかけて徐々に影を潜めました。要介護4の現在、調子の良い時には、全く正常な会話が可能です。久しぶりに会う親戚は「認知症って聞いてたけど、全然違うじゃない!」と口を揃えて言います。
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*「レビー小体型認知症の特集記事(朝日新聞)」(非常に詳しい)
*「レビー小体型認知症の症状と誤診の多さ(患者は医師に幻視を訴えない)」
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